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出張の合間に見た鉄道信号

12月中旬の2週間、出張で滋賀県へ行って参りました。

続き

休日には周辺の土地へ出掛けていたのですが、その際見つけた鉄道信号に関することがらを少し書いてみたいと思います。

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三重県桑名市にある桑名駅。この駅にはJR関西本線と近鉄名古屋線が通っており、両線は志摩方面への観光輸送を巡る輸送シェアの競争が行われています。
この桑名には別にもう2つ、三岐鉄道北勢線と養老鉄道養老線という路線が通っているのですが、この両路線には面白い特徴があります。

それは『青信号が出ない』という点です。
文字だけ見るといつまで経っても先へ進めない様に思えますが、一体どういう事でしょうか。

まず鉄道の主な信号には大きく分けて「停止」(赤)・「注意」(黄)・「進行」(緑)の3種類があります。これらを信号現示と呼びます。
停止信号現示と進行信号現示は自動車の赤信号・青信号とほぼ同じ役割なのですが、注意信号現示は通常45km/h~55km/h程度の速度で進行してよい事になっています。
(それぞれの厳密な定義は割愛します)

ファイル 480-1.jpg
(右は色灯式信号機に取って代わられた腕木信号機(出発)。腕木の方向とレンズの色によって信号を現示する。左下が今日一般的な色灯式信号機である。)

先程挙げた2路線はかつて近鉄の路線だった為、車両や設備などに近鉄の要素が色濃く残っています。さほど高規格整備の路線ではないので、最高速度はそれぞれ45km/h、65km/hと高くありません。
そこで何故『青信号が出ない』かという話に戻りますが、実は近鉄の注意信号現示は制限速度が65km/hと高めになっています。つまり、『青信号が出な』くとも注意信号があれば事足りてしまうのです。

ファイル 480-2.jpg
(画像中央で出発信号機が注意信号を現示しており、その上の進行信号の灯が蓋をされている事が判る。右の丸い灯器は踏切動作反応灯である。)

この2路線以外にも、近鉄の一部路線などで最高現示が進行信号ではない事例があります。かつては東京・新宿から出る京王線にも似た事例がありました。

…ちなみに、北勢線はある理由で1駅間のみ進行信号現示を見ることができます。
一体どこで見られるかについては、実際に行って確かめてみて下さい。

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所変わりまして岐阜県は美濃加茂市、美濃太田駅から出る長良川鉄道越美南線のお話です。
国鉄越美南線として開業し、当初は越美北線と一体化して福井までを結ぶ予定でしたが、諸般の事情で一体化は実現せず国鉄から第3セクターに転換して今日に至ります。
この路線では、スタフ閉そく式と特殊自動閉そく式(電子符号照査式)という2種類の閉そく方式が採用されています。

「閉そく」は鉄道以外では聞きなじみの少ない言葉かと思います。解りやすい例として、100km/hで走っている自動車と列車を考えてみます。
自動車はブレーキを掛けてから約100mで停止できますが、列車では停止まで400~500m進んでしまいます。これでは前方に列車があるのを視認してからブレーキを掛けても、停車が到底間に合わず衝突してしまいます。
この様な事故を防ぐ為、鉄道では線路を区切って1つの区間に1つの列車しか入らせない「閉そく」という概念が採用されました。この1列車しか入れない区間の事を「閉そく区間」と呼びます。
閉そくは様々な方式で実現されていますが、自動で閉そくと信号現示が行われる「自動閉そく式」と人間によって行われる「非自動閉そく式」に大別されます。

先述した2方式の内、スタフ閉そく式(通票式とも)は非自動閉そく式に分類されます。
「スタフ」という丸い金属板を通行証として1つ用意し、このスタフを持つ列車が閉そく区間(ここでは駅間)に入ることを許可する方式です。
スタフが1つしか無いのでダイヤ設定に制約が掛かってしまいますが、列車本数の少ない線区では十分ですので地方路線の末端区間に残されています。
長良川鉄道では美濃白鳥以北の末端区間に残されています。余談ですが、一体化されなかった越美北線の末端区間にもスタフ閉そく式が残っています。

一方、特殊自動閉そく式(電子符号照査式)は自動閉そく式に分類され、「電子閉そく」とも称されることがあります。
まず運転士は発車前に、自列車に搭載された車載器(無線機)の出発要求ボタンを押します。この車載器には予め自列車の情報が登録されています。
出発要求を行うと車載器と駅にある閉そく装置の間で通信が行われ、出発駅の閉そく装置と到着駅の閉そく装置間で通信が行われた後に閉そく装置が閉そくを行います。
閉そく装置は管理駅の制御下にあり閉そく扱いは運転士が行う為、各駅に運転要員(信号扱いを行える者)を配置する必要がありません。また駅間に軌道回路を設備する必要が無く、通常の自動閉そく式と比較しても導入コストが抑えられます。
長良川鉄道では更に安価とした赤外線を用いる方式が採用されています。運転士がリモコンを受光器に向けて操作すると、数秒後に出発信号機が進行信号を現示する様子が見られます。

ファイル 480-3.jpg
(手前の踏切板の前後に2本立つ縦長の箱が受光器。受光器が受信した情報は駅の閉そく装置に送信される。)

電子閉そくは前述の非自動閉そく式から低コストで自動閉そく化できる為、地方路線で採用された例が多く見られます。ただし互換性・保守性に難がある事から、今後採用される事はなく新しい閉そく方式に代替されることが予想されます。

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滋賀県には、信号に関して忘れてはならない場所があります。
JR草津線の貴生川駅から信楽高原鐵道に乗り換え、1つ目の紫香楽宮跡駅で降りて国道を北へ歩きました。

ファイル 480-4.jpg
信楽高原鐵道列車衝突事故の現場です。写真の左奥には犠牲者42名の慰霊碑が設置されています。
平成3年5月14日午前10時35分、世界陶芸祭へ向かう乗客を乗せた超満員の臨時列車は、信楽から来た普通列車とこの地点で正面衝突しました。

信号システムに関して運行者間の齟齬と理解不十分が積み重なった結果、起こるべくして起こってしまった事故でした。
悲惨な事故が繰り返されぬ様、慰霊碑に手を合わせました。

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慣れない土地での業務は多少なりとも戸惑いがありましたが、先輩のご助力を頂き期間内に業務を終えられました。
また、普段は気軽に行けない距離の土地で休日にリフレッシュできたことも幸いでした。

鉄道信号についても新技術や海外の技術を勉強し、視野を広げて行ければと思います。

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